ザ・スター 沢田研二22

JULIE
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第22章 好き嫌い

話した人 沢田 研二<1976年6月11日>

過ちには償いを

 自分一人の力でこの道のりを歩いて来たとは思わない。さまざまなアドバイスも受けたし、いろんな人と相談もして来た。しかし最終的に行動する時の判断は、すべて自分で決めてきたつもりだ。
 その行動が、たとえ制裁を受けるようなことになったとしても、それはぼく自身の責任であること、他の誰のせいでもないことを、はっきりと自覚したい。ぼくのまわりの人達に迷惑をかけることに対して、恐れはある。
「一人で生きているんじゃないぞ!」
 と言われれば、強気なことも言えなくなってしまう。
 今回の新幹線車内の出来事で、もしまわりの誰かがクビになったとしたら・・・・と考える。それに対する償いは出来るだけする覚悟だ。もしも償いきれない範囲にまでおよんだら・・・それでも償いはする、きっとする。そうまでしてぼくをそういう行動に走らせるものは、いったい何だろう。
 芸能界にも前人が作りあげたセオリーというものがある。しかし、それは前人のなしてきた統計から出る答えであるから、その通りやったら、絶対に前人よりも上には行けないのではないかというのが、ぼくの考えである。必ずしも人の通った道を歩く必要はない、という考え方である。そうじゃないと大きくなれない。さまざまなことが自分のまわりに起こっていた方が、結果的には自分のためになるのではないだろうか。だからといって人騒がせなことを引き起こしているのではないが、結果的には自分のためになるという意味からすれば、今回も、ふつうの人よりもいい勉強をさせてもらっている気もしている。

 芸能人であるかどうかにかかわらず、ぼくにも人間として感じる好き嫌いの感覚はある。
 正々堂々としたことが好きである。いま面と向かって、
「いもジュリー!」 
 と言われたら、たぶん、にが笑いして、
「・・・・ハハハッ、そうですか」
 と言うだろう。すれちがいざまとか、聞こえよがしとか、相手の目をみないでものをいう人をぼくは嫌う。

嫌悪感残さずに

 だから今回でも、ぼくに声をかけたと思われる相手の人に、面と向かって話して欲しいから呼び止めた。そこでもう一度、
「いもジュリー!」
 といったのなら上等だとも意気込んだ。いやきっと比較的おだやかな話し合いになっていただろう。
「なぜあなたは、ぼくをそう思うんですか?」
「そんな中傷を受けるようなことを、ぼくはあなたにしたんでしょうか?」
 きっと話はぼく自身の問いかけとなって進んでいっただろう。
「なにも言っていない」
 という彼の言葉がそれを終わらせた。何の解決もなしに、ひとつの嫌悪感を残したままで・・・・。

言葉にも暴力が

 腕力の暴力があるとすれば、言葉の暴力もあることをぼくは知っている。小さい頃の記憶にもあるけど、遠目に人を見て、
「なんだい、あんなヤツ」
「おれの方がいい男だぜ」
 と言いたがる人が、なんとも妙に映ったものだ。指さして言われてる人よりも、たいがいひやかし言葉を言ってくる人の方が、反対に劣って見えた。
「なんで、ウソを言うんだろう」
 子どもごごろにも、あほらしいことが分かった。以来ぼくは、人を見て、この人はこうだと決めつけることがなくなった。間違って人を傷つけることが、ずいぶんあるのだから。
 先日街中を歩いていたら、
「握手して下さい」
 と女の子に呼びとめられた。右手をさし出すと、
「イヤそうな顔しないでよ」
 不きげんな声がかえってきた。
「別にイヤそうな顔はしてませんよ」
「そう、疲れてんのね」
 そう言われて、ぼくは、
「疲れてませんよ」
 と言いかけてやめた。彼女は善意のつもりでぼくにそう言ったのだから。だが、ぼくの本音とは、ずいぶん違うところで彼女はぼくをみつめ、勝手なジュリー像を作ったことは確かだろう。

張本選手を思う

 善意から出た言葉でも、ぼくにとっては、これほど考えに値する材料になるのだから、悪意に満ちた言葉ではなおさらである。先日、広島球場で、人種問題についてバ声をあびせられた張本選手の怒りは、その最たるののであろう。

 今回のような出来事が起こるたびに、一対一で話せばみんなに分かってもらえるのに・・・と思う。一対一で話せば、個人で思っていることにおのおの、そうかわりがないことが分かる。それが二対一、三対一と数が増えると、なぜか、世間対個人の意見に分かれてしまう。
「いもジュリーと言われたぐらいで怒るなんて短気ですよ」
 と言われれば、
「そうですかねえ」
 と考え込んでしまう。
「なにを言っても相手の自由ですよ。あなたを本当にそう思ったのかもしれない」
 ここまでくると、ぼくの好き嫌いなどという感覚は、まるで世間一般的な考えの中にのみこまれてしまう。
 いやちがう。ぼくは好きなものは好きで、嫌いなものは嫌いだ。

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