ザ・スター 沢田研二33

JULIE
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第33章 ファン

話した人 沢田 研二<1976年8月27日>

高校野球の準決勝

 ステージは実際その場に立ってみないとわからないものだ。選びぬいたステージ構成のつもりでも、その地方によってはヘビーに思われる時もある。
 福岡市民会館では、野外用のリズムもの中心の構成にふりかえて一汗流してみた。そうしてみると、夏のステージは一種のスポーツにも似ている。
 ツアーは九州地方から再び北上しはじめた。残り少なくなったステージ、夏ももうじき終わる。そういえば、今年は夏の風物詩である花火を久しぶりに柏崎市でみることが出来た。
 ホテルの屋上からぼくらは夜空を見上げていた。夜9時の最終回とあって、市街のどこからか聞こえる拡声器の声も一層盛りあがっていた。花火があがるたびにぼくらは9・50、8・85など、オリンピックの体操競技のように点数をつけ、あどけなくはしゃいでいた。「紫ぼたん」ぼくがいまでも覚えている花火の名。きれいだった・・・・。
 長崎でおもわぬ夏の風物詩と対面した。その日の朝刊は地元海星高校が全国高校野球選手権の準決勝を行うとあって華々しく書きたてており、商店街も臨時休業する勢いで、ぼくのステージの入りが案じられたものだった。
 街中がテレビ、ラジオの野球中継に聞きいってるまっ盛りの午後3時、ぼくのステージは幕を開けた。予想以上の観客数に胸をなでおろす。ぼくらはロックで飛ばしはじめた。
 ただ前から2番目の男の人が、最初からずっとうつむきっぱなしで耳に手をあて、うずくまっているのが気にかかった。
「ただ今海星対PLは2対0でPLがリードしております」
 地元に人にせめてものサービスとぼくは実況よろしく野球の経過を報告した。
 すると、うつむいていた男の人が突然、
「やった、1点入った。2対1だ!」
 と叫んだ。
「あんたさっきからラジオきいてたの?」
 あまりのことに会場とステージは爆笑。
「それにしても目の前であんなにガンガンやってよく聞いてたねえ。まいった」

心配のタネ・・・・事故

 さまざまな観客がいる、さまざまなファンも。中にはぼくをよく知ってて客席から気を遣ってくれるあまり、リラックスしない、はずみのないステージになることもある。
 ぼくが知らず知らずに気を遣わせてきた反動ともいえる。それほど口うるさくいってきたつもりはないが、ぼくはワーワーキャーキャーと、ファンが群がっているだけのグループサウンズのアイドル的概念で一般の人から思われるのは残念だった。そのためファンに、
「ただ騒がれるだけの歌手と思われてはつまらない。実際そうではない。歌を聴くべき時には静かに聴いてほしい」
 といってきた。74年に第1回のロックンツアーがはじまるころには、ただ騒ぐだけの人はなくなった。それでもステージがエンディング近くになると、後列にいた人が前方になだれ込んで総立ちとなった。
「帰れ、帰れ」
 のシュプレヒコールがファン同士から起こる一幕もみられた。
 一番困るのは混乱の中でケガをしたり事故が起きることである。もう会場を貸せないといわれたらぼくらは終わりである。タイガース時代に、ファンの混乱がニュースとなり、教育委員会から注意をうけたことも、親がぼくらの公演を見にくる子供を叱ったこともあった。
 各会場は以来ぼくらにきびしい。オーケストラボックスのある所は、せり上げてステージとの間に境を作り、ない所は前列の客席をつぶして張り出しの壁を設置することをよぎなくされた。警備員の数から、ファンを立たせるな、の指定さえある。ぼくらは主催者側と出来るだけ観客がリラックス出来る線で話合う。しかし、
「もしも大事が起きたら・・・・」
 の言葉の前には弱い。

男性客が増えた!

 その日も、
「帰れ、帰れ」
 のシュプレヒコールが会場に起きていた。ぼくはたまらずマイクに向かい、
「そんなに前でみたかったら早く並んで切符を買えばいいじゃないか」
 と前に集まったファンにいった。一瞬会場は静まりかえった・・・・。
「全部切符が早い順に買えるとは限ってない。今回は通信販売の方法をとったので、早く申込んでも係員の整理のつごうで、どの席が当たるかわからないんだ」
 誰からともなくそんな実情を聞かされたのは、大分時間が過ぎてからであった。それならば運悪く後ろの席についたファンは前へきたい気持ちもわかる。
 ある日は警備員のあまりにもきびしいファンのあつかいに、ステージの上から逆にぼくが警備員に口を出して、
「やめとけ」
 といった時もあった。
「おまえらのためにやっているのになにいうんだよ」
 そういわれればそうだけど・・・・。
 福岡市民会館の客席のイスは後ろに倒れるようになっていた。
「イスに立つだけは危険だからやめさせて下さい」
 会場側からいわれたばかり、ぼくはマイクを持たない片手で着席するようにいく度もポーズをとる。

 ツアーをして、男の人が会場に姿をみせる数もふえた。ファンの様子も変わっているのだろう。これがぼくが一般的になってきたことか。一般的とは幅広いということであり、逆に個性を失うということでもあるとすれば、むずかしいところだ。
 しかしぼくに問題なのは人数である。会場のキャパシティーは決まっている。女性の観客層の中に男性の入りこむすきまが出来たと理解したい。いくら男性が来ても聴いてくれなくては意味がない。やはり会場の”熱度”が欲しい。

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