ザ・スター 沢田研二31

JULIE
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第31章 ふるさと

話した人 沢田 研二<1976年8月13日>

てるてる坊主が

 日焼けした肌が一皮むけた。ロックンツアーは折返し点にさしかかった。左腕に輝くのは、柏崎市で行われた野球大会(ジュリーズ対スーパースタッフ)でいただいた最終週選手賞・ディズニー腕時計。
 5回裏からぼくがリリーフ。8対8でむかえた9回裏、ワンアウトからぼくのセンター前ヒットで一、三塁。付人の三上君が殊勲打で劇的な勝利をおさめたものだ。
「沢田、張本みたいだな」
 この日は5打数3安打、すべて狙い通りにジャストミートさせたショート・オーバーのヒット。野球職人の張本選手の名をいただいたのは光栄である。
 それにしても今回のスーパースタッフは手ごわかった。赤のユニホーム、黄色のアンダーシャツ、赤の帽子、黒と黄色のストッキング。まさに燃える男の軍団との戦いであった。そして翌日の柏崎海岸公園野外劇場では、スタッフとぼくらは一団となってなおさら燃えた。
 柏崎は台風の余波が続いていた。昔から歌われているように米山さんの上に雲が出るとひと雨くるらしい。あぶない天気だ。この夏のツアー初めての野外公演である。なんとしても雨だけは降ってほしくない。
 午後7時、会場は5千人の観客が埋めつくしていた。ステージ前列には場内整理のためのロープが張られた。そこに白いものがフワフワぶらさがっているのがぼくの目についた。よくみればなんとてるてる坊主ではないか!?誰がつけてくれたのか知らないが、なに気ない思いやりがうれしい。ぼくはそのてるてる坊主をマイクにぶらさげて歌うことにした。選曲も屋内よりリズムものを多くした。柏崎は一日一回限りのステージ、配分を考えずに力いっぱい歌っていい。ライトがともった。

僕の足は冷たい

 柏崎から大阪へは汽車で5時間ゆられて着いた。大阪フェスティバルホールは3日間6回公演とハードである。ホテルに入るとすぐにユカタに着替え、マッサージさんを頼んだ。しばらくすると50すぎのおばさんがやってきた。
「軽めにお願いします」
 とぼく。
「歌い手さんは、体の疲れよりも神経の疲れの方が大きいんじゃないですか?」
 おばさんはぼくの肩に手をかけた。マッサージにかかるのは本当に久しぶりのことだ。肩、腰、足が若干こっているような気がしている。
「そんなこってませんよ」
 おばさんは腰から足に手を移した。
「おや、ずいぶん足は冷たいんですね」
 どうしたわけかぼくは昔から冷たい足をしている。今度は右腕。
「この手の傷はどうしたんですか」
「小学校6年生の時、体操をして、骨を折った手術のあとです」
 もうすっかり忘れていた。骨といえば3年前に車の追突事故にあった時、レントゲン写真をみたお医者に、
「きみは40歳すぎの首をしているぞ」
 といわれたことがあったっけ。
「いくらお仕事だからといってもよくまあずっと歌ってこられましたね」
「・・・・・」
 おばさんの話がだんだん遠く聞こえる。眠くなった・・・・・。
 京都から来た親友、マーちゃんと波多野さんの迎えで目が覚める。彼らは生肉を食べに連れてってくれる約束。遠慮なくぞんぶんに精をつけるつもり。
 波多野さんは昔ドラマー、アマチュアバンド「ファクターズ」のメンバーだった。京都会館でぼくらの「ファニーズ」とコンテストを競ったことがある。マーちゃんも昔ボーカル。いまでは二人ともお店の経営者。僕の新曲「コバルトの季節の中で」のカセットテープをプレゼント。
「店で練習して歌うよ」
 といたずらっぽく笑った。

 京都生まれのぼくには大阪はなにかとなじみが深い。心斎橋のそばにあった「ナンバ一番」というジャズ喫茶はぼくらがスカウトされた場所、いまはパチンコ屋になったと聞く。
 テレビで東京では映らない関西系の放送をなつかしむ。するとぼくがふだん使っている関西弁がいつの間にか純粋さをなくしてしまったのがわかる。仕事でさまざまな人と話すうちに言葉もかわってきた。別にさびしさはない。一種の驚きにほかならない。そしてしかたないと思う。

集まる陽気な人

 京都での公演は今回のツアーにない。同じ関西といっても京都と大阪ではコンサートの感じも違う。いつも京都では地元ということで期待されていたようだ。それに応えるべくことさら全神経を毎回ついやしていた。集まる人も日本全国からといった感が強い。
 これに比べて大阪は関西の陽気な人が誘いあって、中心地に集まってくる感じ。いくらか気が楽にやれるのは確かである。大阪フェスティバルホールのキャパシティーは約4千人。のべ2万4千人の関西人とぼく。
 ぼくのふるさとは京都である。そして大阪は第二のふるさとといってもいい。だがいま大阪から姫路に出発する時、あらたまった郷愁はない。今日はツアーの16日目、まさしくその日である。

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