ザ・スター 沢田研二34

JULIE
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第34章 晩夏

話した人 沢田 研二<1976年9月3日>

名古屋が最後に

 予期せぬ出来事だった。「ジュリー・ロックンツアー’76」の最終地・8月30日横田基地が突然中止になった。
 基地内部の事情がどう変わったのか、その理由は知るところではないが、コンサート会場として使用することが不可能になったという通達。いつになったらふりかえて出来るのか見通しのたたない現状だという。いつまで延期という形もとれなくなった。
 8月28日付の新聞に横田基地公演中止の告知が出された。そして、その日のナゴヤ球場野外公演が事実上ツアー最後のステージとなった。

 ブルーのアンダー・シャツに白いユニフォーム、ジュリーズの野球チームのいでたちに着がえて、ぼくらは最後のステージを球場控え室で待った。スタッフともどもナゴヤ球場の第一歩をユニホーム姿で踏もうというのだ。このアイデアは加瀬邦彦さんから出たもの。
 午後7時バックスクリーンから祝砲にも似た爆発音がこだました。そのきっかけでマーチが高鳴った。いよいよ入場である。一塁側入口から行進を開始。9人中一番最後にぼくがグラウンドに足を踏み入れた。歓声が聞こえる。その行方に目をやると、ぼくがタイガース以来、かつてまれにも経験しえなかった人々の群れがみえた。
 ナゴヤ球場を真っ二つに分けてステージが設置してあり、その位置からバックネット裏までびっしりと手を振る人の影。ナイターでおなじみのうぐいす嬢の声が場内に流れた。
「これよりメンバーを紹介いたします。一番ギター、井上堯之」
 白い衣装に早変わりした彼は、バットとボールを持ってステージにかけあがった。あいさつがわりにボールを観客席に打ち上げようというのだ。
「二番ベース、佐々木隆典」
 メンバーは次々に紹介され、ボールを打った。チップしたり、ファウルになったり、観客のどよめきと爆笑の中で、井上バンドは全員配置についた。
「9番ボーカル、沢田研二」
 その声と同時にナイター照明が消え、ピンスポットがぼくをとらえた。ぼくも狙いすましてボールを打つ。ありったけのボールを打ちまくる。オープニング曲のイントロにのって最後の球がヤミに消えた。

横田中止の分まで

「明後日の横田基地公演が中止になりました。その分まで頑張ります」
 切符まで売りさばいて公演を目の前にしての中止だっただけに、力は二倍たまっていることになる。エネルギーを全開。その勢いをうながすかのようにバックボード下の仕掛け花火がさく裂した。カラフルな炎は「JULIE・ROCKNTOUR’76」の文字を作った。
「いよいよ後半、のっていきましょう。この曲からキャンディ!」
 その時、ステージと観客席の垣根が、群衆でこわれた。もはや境はなかった。警備員が押しかえしても流れは強かった。それにもまして次々と花火はヤミ夜に華やかなホリゾントを作る。ぼくの力はまだまだあまっていた。
 会場をみわたす。ぼくのファンというわけでなく、夕涼みがてら出てきた人までも(その数は全体の3分の1はいるはずなのに)手拍子をくれる。アンコール曲にあわせ、客席と合唱がはじまった時、しだれ柳のような花火が球場に半円を描いた。
 会場は熱していった。誰も帰らなかった。ぼくも歌い続けた。最後の花火が左右から噴水のように打ち上がった。
 「近所迷惑になるから・・・・これでおしまい」
 ちょっとてれて自分にいいきかせるうにマイクに語った。その時、はじめて時間を思い出した。午後9時半。

何と新鮮な1ヵ月

 一発の不発弾があったと、花火職人さんがあとでくやしがったそうだ。すべて100パーセントのステージだった、とはぼくもいえない。
 全ステージを消化して、さまざまな反省がおきる。でもそれはぼくの胸の中の世界、いつもそうだが客席の一人々々まできいてみることのできない以上、結果として安易にくくることは出来ない。しかし、あえてぼくからいうのなら極端な評価をされないステージではなかったろうか。
 都会でも小さな町でもより多くの人に好感をもってみてもらったような気がする。全国縦断のもつ意味をつかめたような気がする。
 なによりもぼくは新鮮な1ヵ月を過ごした。謹慎明けからすぐに入った旅ということではなくて、その新鮮とは説明のしようのない別なものだ。もしかするとぼくのほうからいつになく客席の人の顔を、みよう、みようとしていたからかもしれない。
 それにどうして、が、つくとまたわからない。ステージに立ってあと何日で旅が終わると考えたこともなかった。ましてや、あと何曲でこのステージが終わるかなど計算したこともなかった。時間の方で終わっていた。旅はおもいがけなく早く終わり、もう秋の気配。

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