ザ・スター 沢田研二16

JULIE
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第16章 合宿②

話した人 沢田 研二<1976年4月30日>

二年前の合歓の郷

 2年前の合歓の郷の宿舎は野原にポツンと建っていた。夕食が終わる頃、草原には日は落ちて周りは闇となる。周りに人家などないから本当に闇で、一寸先がみえない。
 自由時間をトランプ遊びで興じていたが、そろそろたいくつになった時、車がこちらへむかって爆進してくる音が聞こえた。排気音がいよいよ近づいたかと思うと、急にブレーキが鳴りドアを開けて男が走って来る気配。
 バタバタッと駆け込んで来たのは加瀬邦彦さんだった。顔面蒼白である。
「どうしたんですか!?」
 みんなが声をかけるのだが耳に入る様子もなく、腰がくだけたようにしゃがみこんだ。
「・・・・・幽霊をみたんだ」
 思い出すのも怖そうに彼は小さい声でいった。
「そんなばかな」
 誰もが笑いながらはやしたてた。ヒマをもてあましていた頃である。そろそろ加瀬さんおとくいの怪談話が出てもよさそうな頃であった。いつになく彼は真剣な顔で語り始めた。
「いい調子で山道をずっととばして来たんだ。こんな夜遅く誰も通るわけがないからねえ。闇また闇だからライトに照らされた前方をしっかりと見てハンドルを握っていたよ。だから、もし人とすれちがうのだったらフロントガラスの前にその影をみせるはずだし、第一細い山道でそれに気づかずに過ぎるなんて考えられないんだ」
 今夜はやたら前おきが長い。何が起こったのかなかなか話したがらない。その分こちらはそうとう怖いのだろうと感じてしまう。
「ふいに白い人影がワキをフワーッとかすめた。ぶっかったショックもない。その人はうまく逃げてくれたのかなと車を止めてふりむけば誰もいないんだ。今度はワキで転がっているのではないかと心配でドアを開けて気がついた。ワキは崖だったんだ。人なんかふいに現れる場所でもなければ、立っているすきまさえないんだ。そうなりゃあれはいったい何だったんだ。幽霊より他に考えられるかい!?」
 加瀬さんは一息にしゃべり終えると、ぱたっとフトンの上に横になりイビキをかきはじめた。

 恐ろしいことはそれから起こった。急に眠ってしまった加瀬さんを井上堯之さんがゆり動かした。
「ずるいよ。しゃべるだけしゃべって一人で寝るなんて、さあ、起きて起きて。もっと話してくれよ」
 加瀬さんはゆっくりと目を開けた。まぶたが真っ赤である。
「ああよく寝た。いま何時?1、2時間は寝たかなァ・・・・」
「どうなってるんだよ。たった5秒ぐらいうたたねしただけでぼけちゃって。あんなにおもしろい話をしていたのに」
「話?ぼく話なんかしてないよ」
 一瞬みんなの笑い顔が消えた。沈黙が続いた。
「ほら、幽霊の話だよ。いま車で来る途中白い人影を見たといったじゃないか」
「ああ、そうだとも、確かに見たんだ。だけどみんなどうしてその話を知ってるの?」

加瀬さんに何かが

 ワーッという悲鳴にも似た声をあげて全員がふるえながらベッドにもぐり込んだ。こんなバカなことってあるもんか。それじゃ、さっき話していたのはいったい誰なんだ。
「幽霊は人にのり移るんだ。あれは幽霊が加瀬さんの体をかりてしゃべってたんだ」
 井上さんがひどく信じきったような口調でいうからたまらない。もうベッドから一歩も動けない。

野球用具持って・・・

 宿舎は3~5人部屋がいくつもあって各自おもいおもいに寝る。こんな話があった夜は、その話をわざわざ裏づけするように努力するものがいて、うし三つ時ドアをノックしてまわったり、白いシーツを部屋に投げ込んだり、おちおち寝てもいられない。ただしその犯人が誰だかわかった時は、その倍以上もみんなからおどかされるハメになるから、ぼくはいくらおもしろくてもおどかす側にはまわらないことにしている。
 実際幽霊は怖い怖いと思ってた方が無難なものらしい、というのは井上さん。岸辺シロー君が死んだ友達の話をしてくれたことがある。友達は強がりで幽霊なんか信じてなかったらしい。ある夜、招待された家でそこに伝わる怪談話を聞かされて、そんなのウソだよといつものように笑った。強者ぶりをみせるためか、一人で長い廊下をわたり便所に入った時である。用が終わり、さて出ようとしたら戸が開かない。幽霊の仕業だ。友達はあまりの恐怖にどうにかして出ようともがき、とうとう便所の前のガラス戸に首を突っ込んで死んだのだという。
 さしずめこわがりのぼくは、人からおどかされても幽霊からあいさつを受けることはないだろう。コミュニケートが合宿の本音理念だとすれば、幽霊はみんなが心をひとつにするかっこうな媒体である。

 今年の合宿は7月中旬になりそうである。場所は未定。ぼくは夏むきの白いシーツをひっぱりだして、いちはやく衣替え。街をゆく風も初夏のかおり。楽屋にたどりつけば、井上バンドのメンバーも合宿を待ちこがれている様子。マネジャーの森本氏から、
「来週の地方公演の途中、グラウンドが取れました。各自野球用具を忘れないように」
 と通報あり。なまっていた体がピンと張りつめる。スパイクも夏の日に美しい紺色に変えようかな。

 加瀬さんといえば私のイメージはいわゆる「陽キャラ」なのでwこのエピソードを読む限りは真逆の雰囲気に本当にパタンと寝る直前まで霊が憑依していたのではないかと思うんですが👻
てか、これを書いた時点でおととしのエピソードなのに、加瀬さんが幽霊?に出会った時の経緯がエラく詳しくないですか、あ、加瀬さんに聞いたのか?なんて想像しながら書かせていただきました(笑)

そういえば、加瀬さんがお亡くなりになられた後のライブでたまに沢田さんが「加瀬さんがイタズラしている」なんて言ってたなあ・・・(ツアー中にたまに起こる謎の事象に対してね😅
そういうことが起こるたびに、この合宿当時の加瀬さんの怪談話を思い出していたのかなあ。

沢田さんのコワガリはw比叡山の山頂にかつて遊園地があってお化け屋敷もあった時に裕子さんと一緒に入って(コワクテ)入口からすぐに出てきたwwwというエピソードをじゅりけんかで話していた記憶があるなあ。

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